不機嫌な恋なら、先生と
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不機嫌な再会
雨が降ってきた。
歩行者信号が赤になり、立ち止まる。慌てて飛び出してきたものだから、傘なんか持ってこなかった。失敗した。すぐやむかな。
忌々しく空を見上げると、頭上に透明なひさしができて、雨を弾いた。
傘にいれてくれたんだと気づいて、隣の人に顔を向けた。
「すみません」
「いいえ。良かったら、駅まで行きましょうか?」
彼も私を見た。目が合って、息を呑んだ。彼も気づいたみたいで、「なつめ?」と、私の名前を呼ぶ。
数年ぶりの再会だというのに、その気兼ねのない呼び方は彼が大学生のとき、私の家庭教師をしていた頃と何も変わらない温度を伝える。
「なつめだ」
くったくなく笑う。きっちりとしたスーツ姿。あげた前髪のせいか爽やかで、端正といっていい顔も大人っぽくなったけど、笑った顔は変わらなかった。
平日のこんな時間に駅へ向かっているということは、きっと今は都内の企業にでも勤めているんだろう。
訊きたいことはあったけど、ふとあの頃の苦い思い出が頭を過ると何も言いたくなくて口をつぐんでしまった。笑いかけることも、したくなかった。
「全然変わってないな。あの頃のまま」
「えっと、失礼ですけど、どちら様ですか?」
「覚えてない?サギサカリクト。なつめが中学のとき……」
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