不機嫌な恋なら、先生と
「どうなったって」と困惑した顔で私を見る。

「何もなかった」

「……え」

「怖いと思ったことってやってみたら、こんなものかってこともあるんだろうね。やってみなかったから、知らなかっただけで」

「知らないうちにやれてしまうことなんて、本当の恐怖じゃない気がします」

花愛ちゃんはしっかりした口調で言った。

「そっか。じゃあさ本当の恐怖ってどういうものなの?」

「勇気がないと、立ち向かえないもの」

「勇気ってなんだろうね?」

「何かを克服したいときに、乗り越えようと湧いてくるものじゃないですか?私は、それがどうしても湧いてこなかったんです。だから……」と、また言葉を詰まらせた。

泣きそうだった。こんなに真剣に今回の企画に対して向き合ってたんだって、思いが私にも伝わってきた。

真剣に逃げようと思って、苦しい。そんな気持ちがわかる。

私は花愛ちゃんを抱きしめたくなったけど、それが必要かわからなくてとどめた。人を抱きしめたいなんて思ったのは、初めてだった。

「私さ、勇気って、自分を逃がす為の便利な言葉だなって思うとき、あるよ」

「え?」
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