不機嫌な恋なら、先生と

「まあ、どっちでもいいですけど」と、同じように言い返してから続けた。

「実は、私、第一志望の大手の出版社には就職できなかったし、ここに就職できたけど配属されたのは、興味のなかったファッション雑誌の編集部だし、失敗も多いし余裕がなくて……だから仕事が面白いとか、そういうの考えられなくて。
今日はミスしないでやろうって、そういうことばっかり考えて、だけどやっぱりミスして、自分ってなんでこんなに仕事できないんだろうって思ってたんです。
一人前に仕事も任されないから、余計に焦って。
でも今日、あっという間でした。楽しかったです。すごく。
やってることはいつもと変わらないはずなのに。
それが、私にとって集中したってことだったのかなって思いました」

先生は黙ってコーヒーを飲み込む。

編集部で二人でいるのは変な絵だなと思うのに、こうして机に向かって話をしていると、昔を思い出してしまう。

私の隣に先生が座って勉強を教えてくれたあのときを。

あのときめきはもう昔のことだけど、また会えることって、本当はとっても素敵なことのような気がした。

そして、今は違うときめきを教えてくれたのは、先生なんだなと、悔しいけど純粋に思った。
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