不機嫌な恋なら、先生と
「あの、匂坂先生にも感謝してます。
私、本当は文芸部で働くのが夢で……だからファッション誌で、作家さんとお仕事が出来るって、夢に一歩近づいた気がしてたんですから。
先生の原稿を貰うとき、すごいドキドキしてたんですよ?」と先生に一度視線を向け、マグカップを両手で包み込んだ。
「それで、今日、実感したことがあったんです。
ここの部署じゃ自分がやりたいことが出来ないと思ってたんですけど、この雑誌を見て、メイクで可愛くなったり、肌が綺麗になったり、楽しい場所に行ったり、したいことを叶えるって気持ちを味わえる人が増えたらいいなって。
そういうことをしたかったんだって思い出せました。
あ、もちろん先生の小説を読んで楽しんでくれる人も増えてほしいです。
私も、今から先生の原稿読むのが本当に楽しみですから。
私も、読者さんと一緒になって、楽しみたいです」
「じゃあ箱崎さんが納得いくもの書かないとね」
「ええ。そうですよ。読者代表ですから」とわざとらしく胸を張る。
それから、思った。
言おうかなって。
先生が私のことを知らないふりするのも、なんで私にキスをしたのかも理由はわからない。
中学の卒業式の思い出は、やっぱりコーヒーみたいに苦いし。だけどそれ以上なんだ。それ以上に、伝えたいが勝っている。
衝動的かな。間違えないように言えるかな。考えながら口を開いた。