不機嫌な恋なら、先生と

「あの、先生、今日、私、先生の取材で嘘吐いてしまいました。すみません」

「嘘?」と、よくわからないと言った顔でまじまじと見た。

「はい。実は、編集者になろうと思ったきっかけなんですけど、中学の家庭教師の先生との出会いがきっかけなんです」

「……」

「あの、私……実はすごい嘘吐きで、その先生にもよく嘘を吐いてました。
最初に嘘を吐いたのは、先生に学校楽しい?って訊かれて、うんって言ったことで。
本当は、全然楽しくなかったし、友達は好きじゃなかった。
あと覚えているのは、夢を訊かれて、編集者になるって言ったことです。
だからいい大学に行きたくて、外部の高校を受験するって……それ、嘘で。
本当は学校にただ馴染めなくて、学校を変えたかっただけなんです。
受験する為の適当な理由がほしくて、そういう夢があるから頑張りたいふりをしただけなんです」

そういうと先生は微笑んだ。なんとなくだけど、見透かされていたんじゃないかなと思うような優しい笑い方だった。
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