不機嫌な恋なら、先生と

寝室の扉をノックする。返事がなかったので、そのまま入った。

「先生?」

呼びかける。近づくと小さな寝息を立てていた。寝てる。どうしようと思うけど、足に根っこが生えたみたい。そこから動けなかった。

無防備だなと思う、この前も今日も。私がいるのに寝ちゃうなんて。

その場にへたりと座り込んだ。

「凜翔先生」

そう呼んでいたのにな。コウサカ先生だなんて、別人だ。

なんだか寂しくなる。返事がないと、かくれんぼして、もういいよと言われない鬼みたいに、もの寂しくなる。

「凜翔先生」と、もう一度、呼んでみる。やっぱり返事はなかった。だから続けた。

「なんで気を持たせるようなこと言ったんですか?
あのときの私は子供すぎて、恥ずかしい勘違いをしてましたよ。
先生にとってはどうでもいいことなんでしょうけど。
恋愛対象として見れないなら、ああいうこと言ってほしくなかったです。
キスだってどれだけ嬉しかったか、知らないでしょ?
冷たい方が優しいときってあるんですよ」

少し近づく。触れたくなる。先生に。前髪が流れて顔が良く見えないから、その髪を指先ですくってみたくなった。

熱がないか確認する振りをして額に触れてみようか。そう思って、やめた。

なんだそれ。

自嘲的に笑いたくなる。

だって、この気持ち知ってる。覚えてるんだ。

触れたいとか、ここにいたいとか、何かをしたいって、そういうのってさ。

大人になったはずの私は、15歳の私に教えられる。

恋する感覚って、大人になっても同じなら、きっと、これは、そういうことだって。





恋って、呆れるほど、あっけなく落ちる。

塞ぎこみたくなった。

だって、これって、完璧に恋じゃないか。
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