不機嫌な恋なら、先生と

「帰るの?」後ろから声がして驚く。

振り返ると、リビングの扉の前に先生がいた。

「あっ、はい」

「送る?」

「大丈夫です。それより食欲あります?」

「うん」

「あの……お粥、出来たばかりなので、まだ温かいと思いますけど。良かったら、食べてください。じゃあこれで失礼します」と頭を下げ、先生の横を通りドアノブを握った。

「あ、待って」と、その腕を掴まれて、見上げた。

「はい」

「ありがとう」

そっと手が離されたのに、そこにその言葉の余韻が落とされたみたいだった。嬉しかった。

「早く小説を書いてもらいたいだけです」と顔をそむけて答えた。

「昔の方が可愛かったな」と言うので、「なんの話でしょうか」と切り返す。

「さっき見てた夢の話」と、私の頭をポンと撫でた。

嘘吐き。言いたくなったけど、耐えた。

「よし。食べたら、書くかな」と気合いを入れるように、軽く曲げた両腕を後ろに引きながら言う。キッチンへ向かう様だった。

一瞬、言われた意味がわからなくて停止する。

「えっ?大丈夫なんですか?無理しないでください」と、気づいて追いかけた。今から執筆するって無茶だ。キッチンカウンターの向こう側にいる先生と向き合う。

「普通、逆じゃないの?」となぜか笑われる。
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