不機嫌な恋なら、先生と
「それに心配とかじゃないよ。理解がないだけ。帰る度、小説なんてやめろって言ってくるから」
「小説やめろ?」
「ああ。人気がなければ続けられないような先の見えない仕事はするなってさ。俺が作家をしてるって周りには言いたくないらしいし、それ自体職業として良く思われてないみたいだ」
「そんな……」
意外だった。先生くらいに売れてる作家なら、認められてもいいはずだと思うから。
だから兼業で、顔を出さないのだろうか。
「そんなの一生の仕事にするつもりじゃないだろうなとか、こんな歳になっても干渉するものだから、正直会うと面倒なんだ。少し考えが古いんだよ。二十代後半で独身なんて問題のように言われるし。色々」
「結婚のことまで言われるんですね」
「一応長男だから」
「そっか……やっぱり二十代後半になると、親も気にかけるんですね。私は言われたこと無いからな」
「それは就職したばかりだし。まだいってほしくないんじゃない?お父さんは」
「そういうものですかね……ちなみにそういう先生は、結婚って考えたことあるんですか?」
「……まあこの歳だしね。考えた人もいたけど。ダメだったからな」
結婚を考えた人がいた。その言葉が思ったより衝撃的で言葉が出なかった。
「なんか余計なこと話しすぎた。ごめん」と、先生が謝るから、小さくかぶりを振った。