不機嫌な恋なら、先生と
「ち……違いますよ」
「ごめん。エアコンつけて良かったのに。体、冷えちゃったね。ていうか寒い中来てくれたんだ。ありがと」
どうやら冗談だったみたいで、慌てて否定した自分がちょっとバカみたいだった。
でも熱のせいかな。今日はなんか素直だ。邪気の無い口調で改まってお礼を言うから、私も素直に言ってしまいたくなる。
だってとっても心配でしたから。でも、やっぱりそれは言えない。
垣根を越えてはいけない。頷いて誤魔化した。
「さて、やるか」と、腕が離れてほっとする。寝室に向かおうとした先生を「あ……あの」と、引き留めた。振り向く。
「ん?」
「いえ、なんでもないです。何かできることあれば、言ってくださいね」
ドアノブに手をかけて先生は言った。
「じゃあ、なんか美味しい夜食でも、と言えたら良かったけど」
「では、あったかい飲み物でもお持ちします」
「ん」と、扉が閉まった。
本当は訊きたかった。まどかさんって誰ですかって。
結婚を考えた人ですかって。