不機嫌な恋なら、先生と

「ち……違いますよ」

「ごめん。エアコンつけて良かったのに。体、冷えちゃったね。ていうか寒い中来てくれたんだ。ありがと」

どうやら冗談だったみたいで、慌てて否定した自分がちょっとバカみたいだった。

でも熱のせいかな。今日はなんか素直だ。邪気の無い口調で改まってお礼を言うから、私も素直に言ってしまいたくなる。

だってとっても心配でしたから。でも、やっぱりそれは言えない。

垣根を越えてはいけない。頷いて誤魔化した。

「さて、やるか」と、腕が離れてほっとする。寝室に向かおうとした先生を「あ……あの」と、引き留めた。振り向く。

「ん?」

「いえ、なんでもないです。何かできることあれば、言ってくださいね」

ドアノブに手をかけて先生は言った。

「じゃあ、なんか美味しい夜食でも、と言えたら良かったけど」

「では、あったかい飲み物でもお持ちします」

「ん」と、扉が閉まった。

本当は訊きたかった。まどかさんって誰ですかって。

結婚を考えた人ですかって。
< 136 / 267 >

この作品をシェア

pagetop