不機嫌な恋なら、先生と
「それと誤解しないでほしいけど、書くことは楽しい。それは間違いない。
まあ思ったように進まないときもあるし、こういう風に考え込んでしまうときもあったりするけど。それも含めて。
だからせめて、仕事と思わないようにしたいんだ。なるべくね。
好きだけで続けたいから。
でもこういう悩みを打ち明けてみるのもいいね」と真面目な顔から、いたずらっこみたいな笑みに変わる。
「え?」
「相手が普段言わないような言葉を聞けるから」
「……先生は、悩みを誰かに言ったりすることなさそうですもんね」
「そう見える?」
「はい。そう見えます。だから小説のこと否定してるかもしれない大事な人にも見せたらいいんですよ。
そしたら相手が普段言わないようなこと、言ってくれるかもしれないじゃないですか。
私は、先生の世界を受けれてほしいなって、思います」
先生が急に立ち上がるから、驚いてビクリとして固まる。遠まわしにさっき何も言えなかったご両親のことを思い出して口にしてしまったけど、余計なことを言った気がしたから。
だけどそのことには何も触れなかった。ご馳走様と言って、ほっとしたようながっかりしたような気持ちになった。
先生の本質に触れたようで、そうでもないんだと分かったから。
言うほど、私の言葉を聞きたいわけでもない。
聞きたいのは、私で。
先生の言葉や動作、ひとつひとつを手に取って眺めて、考え込んで悩む。
それを続けることは、楽しくもあり、苦しくもあるんだろうと想像はつく。