不機嫌な恋なら、先生と
「先生?」
「もう箱崎さんを観察することもないだろうから。これが最後」
「まあ、そうですけど。って、さっきも最後って言いましたよね?ていうか、なんか矛盾してません?もう書くことないじゃないですか。これ観察じゃないですよね?」
「ううん……観察」
「いや、先生?」
「……うん」
「あの、だから、その、寝室で休みましょう?」
先生はもたれたまま囁くように返事をする。呼びかけても先生はもう何も答えなかった。眠ってしまったみたいだ。
どれだけ、無理してたんだろうと思うけど、この状態のままではいられない。
でも寝室まで運ぶなんて、私には無理だし、叩き起こすのも悪い気が勝ってしまうから、動かせない。
それに加え、男の人に甘えられるって、思ったより心地のいいものだなと感じてさえしまっている。
先生の手が落ちて、私の手の上に重なる。
先生は嘘を吐いたり、気を持たせるのが好きなだけだから、私にこうしてもたれかかったりしても、何も思わない。
今、ここで目が覚めて、私の手に触れていることに気がついても、そうなんだろう。
そういう人だと、分かっている。
気を取り直して、書き上げたばかりの小説の原稿に目を通した。