不機嫌な恋なら、先生と
読み終わって、息を吐いた。
読後感が良くて、幸せな気分に浸っていたくなる。
二人の結末は描かれてはいないけど、きっとうまくいくんだろうなと思わずにいられない。まどかはなんと言って、彼にチョコを渡しにいくのだろう。それとも誘った彼から、何か言ってくれるのかもしれない。
物語の続きを考えていると、世界に入り込んでる自分に気がついて、笑ってしまった。
先生の描く作品はなんてことのない日常が愛おしく思えるから、不思議だな。
真面目で出来るタイプのまどかだけど、聖也の前の気の緩んだ姿は可愛いし、聖也の一本木な性格だけど、まどかに向ける優しさには、キュンとする。
でも、まどかの性格は、私を見て書いたとは思えないくらい別人だ。さすがにそこまで、私をイメージしては書かないか。
改めて先生の命を削ってできた作品なんだと実感する。原稿を胸に押し付け、少しだけ目を閉じる。
さっき、先生への気持ちに気づいたら、どうすればいいんだろうって考えた。今、その答えがわかった。
まどかじゃないけど、私も、せっかく仕事を前向きにとらえられるようになったんだから、こうして肩を貸せるように、先生を支えられるような人になりたい。
先生の作品を多くの人に読んでもらいたい。
最後と先生は言った。だから、こんなことをするのも最後――。
だから、だから、やっぱり終わりにしよう。私も。
その代わり、編集者として、彼のサポートをしよう。
「凜翔先生のことが、好きでした」
そう呟いて、先生の呼吸の音をずっと聞いていた。