不機嫌な恋なら、先生と

打ち合わせが一段落し、息を吐いてカップに手を伸ばした頃には、すっかりコーヒーは冷めてしまった。

「ようやく、いつもの箱崎さんに戻ったね」と先生がソーサーに手を添える。

「えっ?」

「今日は顔がなんか怖かったし、真野さんみたいな早口だから、驚いた」

「ほ、本当ですか。すみません。年が明けたせいか、今年はやるぞって気持ちが全面に出てしまったみたいで」

「すみませんって、まるで真野さんの早口が悪いみたいな言い方だね」

「それは、顔が怖かったことを謝ったんです」

先生のためにと自分なりに考えたことを伝えたいあまり、熱弁してしまったせいか、からかわれてしまった。

先生は、「今日、直帰?」と訊いた

「あ、今日は社に戻らないんですけど、外で打ち合わせがあって、まだ帰れないんです」

「そっか」

「何かありましたか?」

「いや直帰で時間があったら、一緒にご飯でもと思っただけ」

先生と二人で食事には行きたくないと思ったけど、「すみません。今度、是非」と、社交辞令で返事をした。

「この間、すごく迷惑かけたから、お詫びにでもと思ったんだけど。残念だな」

私はかぶりを振って、「あれも仕事ですから」と先生に気を遣わせないようになんでもないことのように言った。
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