不機嫌な恋なら、先生と

「そうなの? そういえば、新刊出たもんね」

「はい。実はファンなんですよ。だからGrantの連載も毎月楽しみなんです」

「そうなんだ。それを言ったら、先生喜ぶだろうな」

「箱崎さんはお会いしたことあるんですね?
どういう方なんですか?前から気になってたんですけど、ヒカリさんに訊いてみたら、担当じゃないから分からないみたいなこと言って、はぐらかして教えてくれなかったんです。
やっぱり聞いちゃダメですか?」

「んー」と言葉を濁してしまう。実は花愛ちゃん、会ったことある人なんだよ、なんて言いたくなったけど、さすがに言えない。

「そっか」と、残念そうにしゅんとすると、沙弥子さんが、「すっごいイケメンだよ」と声を潜めながら、会話に加わった。

「えっ? イケメンなんですか? 見てみたい!」

「だよね。やっぱり、見たいよね?だからね、今、箱崎さんに、Grantで先生の顔出ししてもらえるようにお願いしてるんだ」

「えー? そうなんですか? 箱崎さん、頑張ってください。すごい楽しみにしてますね」

私に向かって期待のまなざしを向ける花愛ちゃんに、曖昧に頷いて、グラスに口をつけた。

正直、笑えなかった。

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