不機嫌な恋なら、先生と
こんな可愛らしい子が、先生のファンだということがあるんだ。
もしも沙弥子さんの計画通りに、Grantで先生が顔を出して記事になったり、書店でサイン会を行ったりしたら、どうなるんだろう。
きっと、女性ファンは増えるだろう。先生の本だって、今まで本を読んだことのない人に手に取ってもらえる、そんな可能性だって広がる。下手したら、テレビのオファーとかもきて、芸能人みたいな扱いをされることだって、あるかもしれない。
先生の作品を知ってもらうことは、喜ばしいことのはずなのに、そんな風に先生が見られることが嫌だと思う自分がいる。
本当は、先生が顔出ししてもいいと言ったあの瞬間から、ずっと、そんな思いが心の中で引っ掛かっていた。
モヤモヤと考えていると、花愛ちゃんは、手元のカクテルを飲み干し、意を決したみたいに、「あの」と今度はKAMAさんに声をかけた。
「KAMAさんみたいに自信を持つにはどうしたらいいんですか?」
「……自信?」と、KAMAさんは眉根を寄せた。
それから顎髭に手を当て、「そうねぇ」と何かを思い出すように目を閉じた。
「まあ、あたしみたいに元がいい女には悩みがないからって、言いたいけど、やっぱり思春期の頃にはそれ相当に悩みはあったものよ。うふ。懐かしいわ」と、なぜか身体をくねらせた。