不機嫌な恋なら、先生と
帰りは先生に車で送ってもらった。
「今日、疲れた? 悪かった」
「ううん。いろんな話、聞けて嬉しかった。先生の家族に会えたのも、すっごく……あっ、そういえば」と、私は思い出して先生に言った。
「ん?」
「今度オルーの新作発表会に行くことになったんだ」
ハモメ食品は一昨年から化粧品業界へ参入し、食由来原料にこだわる自然化粧品ブランド「オルー」を展開している。それの新作発表会の招待状が編集部に届いていた。
「ああ。そうなんだ、行くんだ」
「先生はいたりしますか?」
もしかしたら、先生がその企画に携わっていて、会えるかもしれないと期待した。
「オルーの立ち上げの時には関わってたけど、今は飲料部の担当に変わったから、俺はいないよ」
「そうなんですか。がっかりだなー」
「なんでがっかり?」
「普段の仕事をしている先生も見てみたかったなと思って。残念」
「そう?別に見るほどのものじゃないけどね」
「知ってる?先生?女子が好きな男の人の制服が何か」
「制服?え?うーん。白衣とか?」と悩みながら先生は答える。
「違います。スーツですよ。スーツ」
「スーツ?何回か見てるだろ?」
「そうだけど。それを働いてるときに見るっていうのが、普段と違っていいんですよ」
「なつめって恋愛経験ない様に言うけど、変なこだわりはあるんだな」
「……こだわりじゃなくて、胸キュンポイントですよ。女の子はそういうところに弱いんです。女性向けの小説書くならそういうリサーチも必要ですよ。あ、今、面倒くさいって思ったでしょ?ダメですよ、恋愛小説嫌い。直してください」
「嫌いじゃなくて、苦手なだけ」と言うから顔を見合わせて笑った。