不機嫌な恋なら、先生と

「沙弥子さん!」

「そんなに手の甲押し付けなくていいから」

「だってすごいですよ。触ってください。それに香りも。私、これ全身に塗りたいです」

緑茶の香りがなんだか落ち着く。

「いやこれ、ハンドクリームだから」とヒカリさんに呆れるように言われたけど、「手以外の部分にも塗れるんですけど、こちらにボディクリームもありますよ」と、女性は、丁寧に説明してくれた。

「本日は実演を兼ねたトークショーもあるので、楽しんでいってくださいね」と、その場を離れていった。

ひとつに束ねたウェーブのヘアが揺れる。彼女をどこかで見たような気がしたのに、思い出せなくて、少しして、そういえば先生の会社の忘年会のときにいた女性に似てる気がしただけだった。

そこで照明が少し暗くなり、司会が壇上に現れ、新作発表会が始まった。






終わると、「次回の春メイクの特集にオルーを加えてみてもおもしろそうね」とヒカリさんが言った。

ヒカリさんは、各ブランドからコスメをピックアップしてもらって、春メイクを提案するという企画を担当していた。

確かポピュラーなブランドばかりが名を連ねていたけど、そこにオルーが加わるのも新しい感じがしていいと思った。雑誌を広げたときに、あの可愛らしいパッケージにも、目は留まる。

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