不機嫌な恋なら、先生と

「あ、それいいと思います」

「ちょっと、私、担当の人に挨拶してくるね」とヒカリさんは踵を返して行ってしまった。思い立ったらすぐ行動する。仕事が早いとはこういうことを言うのだろう。

沙弥子さんはふざけた調子で、「箱崎さんは、どう? 今日は、匂坂先生のためのコスメの勉強になった?」と言ってきた。

「え?」

「ほら、この前、展示会で、先生と会うときの服を探してたから、今日もそういう裏目的が……」

「いや、それとこれとは別ですよ」

「ていうか、どうなの?あれから?」

「え?何がですか?」

「何がって、あれに決まってるじゃん。自分で言ったの忘れたの?文芸部に異動するために、匂坂先生に顔出しさせるって。弱み握ってやるって」

そこだけかいつまんで言われるとすごく腹黒い人間のように感じる。けど、ほんの二ヶ月程前はそんなこと平然と言ってたんだ。事実、腹黒かったんだと思うけど、こんなところで話してほしい話ではない。

「沙弥子さん、声大きいですよ」

「だって本当じゃん。どう?いい色仕掛けの方法でも思いついた?」

「そういうことは、別にしてませんよ。あ、でも、この前、サイン会の話をしたらしてもいいかなとか言ってました。でも本心かどうかまだ分からないです。迷っているところもあるようにも見えたので」


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