不機嫌な恋なら、先生と
振り返るとさっき私にハンドクリームの説明してくれたスタッフの女性がこっちに視線を向けた。
「あ、先ほどは」と、気づいて私が会釈をすると、澤辺くんが紹介する。
「うちの広報のまどかさん。こっちはGrantの」と、私の名前を言われる前に、「あ、箱崎です」と慌てて名刺入れを出して差し出した。
「あ、申し訳ないです。先ほど、名刺を切らしてしまって」と、彼女は申し訳なさそうに謝る。
「今日、すごく面白かったです。茶の実の効果もすごい分かりやすかったし。いろいろ欲しくなってしまいました」
「嬉しい。ありがとうございます。自社製品だから言うわけでもないですけど、本当にいいんですよ。香りにもこだわっていて、リラックス効果がありますし」と、言う彼女の肌や手は確かに白みを帯びて、綺麗だ。左手の薬指の指輪が凛として見える。
「パッケージも変わったんですよね。春らしくて可愛くて、お店で見つけたら、思わず手を止めちゃいそうです」
「ありがとうございます」
今日の感想を一通り述べ終えると、澤辺くんが急に思い出したような顔をした。
「そうだ。俺さ、なつめちゃんに会ったら聞きたいことがあったんだけどさ、なつめちゃんさ、うちの会社のサギサカさんと知り合いなの?」
急に先生の本名を言われて、驚きのあまり言葉に詰まった。