不機嫌な恋なら、先生と
手袋を人質に
昼休み、澄美から連絡があったかと思うと、今日、飲みに行こうという誘いだった。
匂坂先生とのことも報告したかったし、いいタイミングだったので、待ち合わせの時間を決めた。
私に彼氏が出来たと報告すると澄美は、嘘だと言って信じてくれなかった。それはそうかもしれない。最近、恋愛の話はご無沙汰だったから。
澄美と同じ会社の人だと伝えると今度は目を丸くした。
「あの合コンで何もなかったっていうのに、どうしてうちの会社の人と付き合ってるの?不思議」と笑いだす。
先生が覆面作家だから、同じ会社の澄美には小説のことは言い出せなくて、昔、家庭教師をしてもらった人で、偶然仕事で再会したと当たり障りのない説明だけした。
名前や部署を聞いてくるので、伝えてみたけど、先生とは面識はないらしい。
だけど、噂で本社のマーケティング部にイケメンの人がいるって聞いてたんだけど、もしかしてその人じゃないよね?と詰められる。
写真ないの?と、聞かれたけどそういえば、そういうことをまだしてないことに気がつく。
これからだと思うと楽しみな反面、先生と恋人という実感が持てないでいるのは、そういうせいなのかもしれない。