不機嫌な恋なら、先生と

「えっ? 何?」

「この前、休みの日に買い物に行ったらさ、会社の先輩でけっこう綺麗な女の人がいるんだけど、その人と課長が二人で腕組んで歩いててさ」

「へえ。社内恋愛ってこと?」

「だったらいいんだけど、課長、実は既婚者なんだよね。ていうことは?」

「不倫?」

「そう。鉢合わせしないように、すぐその店出たわ。下手なことに首突っ込めないし、見なかったことにしたけど。でも誰かに言いたくてさぁ。内緒ね。まあ会うことないだろうけど」

「言わない、言わない。でもそれは言いたくなるね」

「でしょ?でもある意味羨ましいわ。家庭もあってさ、そのうえ不倫もできるって、すごいよね。贅沢すぎる。

私はおひとり様なのに、なんで恋すらできないんだろう。相手は一人でいいのにさぁ。

ていうかさ、大人になると、こういうのって当たり前になっていくのかな。てかなつめの彼は大丈夫だよね?

年上とかいうから。流行りの既婚者だっていうの隠して交際とかされないでよ?」

「それは、絶対ないよ」

澄美のきつめの冗談に笑って首を振った。

一軒目を出ると、澄美が飲み足りないと拗ねたように言う。仕事で嫌なことがあったらしいとは、さっき散々話していたけど、まだすっきりしないらしい。次はどこに行こうかと通りで立ち止まった。
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