不機嫌な恋なら、先生と
ふと先生の家に行ったときに、バイト先のお店の名刺を遙汰くんからもらったことを思い出し、取り出した。
先生は関わらなくていいからと言っていたけど、これはどうなんだろう。遙汰くんが名刺を渡してきたときも先生は、「社交辞令で行かなくていいから」と、私に言ってきたくらいで行くなとは言われなかった。
眺めていると、澄美が私の手元を覗き込む。
「バー?」
「うん。彼の弟が働いてて、行ったことはないんだけど」
「ここから近いし、いいじゃん。行っちゃおうよ」
遙汰くんには彼女とはまだ紹介されていないことを簡単に話すと、そういうこともあるんだ、なんか難しい彼だね、でも了解と口裏を合わせてくれる了承を得た。
どうやら弟でもいいから、私の彼氏に関わるものを見てみたいらしい。
雑居ビルの階段を下りていくと、お店があった。重い扉を開けると、カウンターとテーブル席がいくつかあった。
数人のお客さんとカウンターの奥にバーテンダーがいたけど、そこに遥汰くんの姿は見当たらなかった。
今日は休みかもしれない。どこか気が抜けたような、ほっとした気持ちになる。
テーブル席に澄美と向かい合って座り、お酒を頼む。カシューナッツを口に入れると、「なつめちゃん」と聞き覚えのある声がした。