不機嫌な恋なら、先生と
バーテンダーの制服を着た遥汰くんが立っていた。頼んだお酒をテーブルに置くと、
「来てくれたんだ。嬉しい」
人懐っこい笑顔を私と澄美に向けた。
「うん。偶然近くを通りかかったから、行ってみようかなと思って」
澄美は「可愛い男の子だね」なんて遥汰くんのことを言うから、好印象だったらしい。実際、働いてる彼は、愛想が良く、お客さんの対応もスマートで品があった。
一時間程、澄美と話をして駅で別れた。改札に入る手前で手袋を忘れたことに気が付く。
慌てて引き返すと、遥汰くんと雑居ビルの前で鉢合わせした。
「あれ?」
「あー、もしかして手袋?」
「あ、うん」
「あるよ。ちょっと待ってて」と店に入って戻ってくると、私に手袋を渡そうとして、急にその手を引っ込めた。
「俺、これから休憩なんだけど、少しだけ付き合ってよ」
「付き合う?」
「うん。そこのコンビニまで」と手袋を自分の物のようにコートのポケットに閉まった。呆気にとられたけど、先生に原稿を手渡してもらえなかったことをふと思い出して笑ってしまった。