不機嫌な恋なら、先生と

「あ、遙汰くんは? もう就活は終わったの?」

「俺はまだ……全然。何していいかも、最近分かんなくなってきてる」

「そっか。私も出版社の面接落ちてばかりで、全然違う職種にしようかなとか悩んだときもあったから、分かるなぁ。不安だよね。周りはどんどん決まっていくし、自分の未来は見えないし。でも、どうにかなるよ。うん。頑張ってね」

「ありがと。なつめちゃん、優しいね」

「そんなことないよ。だって、頑張ってねくらいしか、言えないし」

少し間が空くと風の冷たさを感じる。それから遙汰くんに聞きたいと思った。

以前、遙汰くんが私に家族の話をしてくれたときには、先生と両親の間に確執がある気はしなかった。

大人になれば、親と距離が出来たりするのも普通のことかもしれないし、分かり合えない部分とか、そういうものだってあるに違いない。

だけど、先生の小説は、遙汰くんに、家族にとってどう映っているのだろうとずっと気になっていたんだ。それを訊きたかった。

「そういえば、雑誌に匂坂先生の小説も掲載してるけど、読んだ?」
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