不機嫌な恋なら、先生と
「残念?なんで?」
「あ、えっと、今は、雑誌は勿論だけど、先生の小説を読んでくれる人が増えるのが、私の夢だったりするから、沢山の人に読んでもらいたいなって思うから」
と、家族のことを気にしていることは言えず誤魔化すと、へえと遙汰くんは呟いた。
「知らない内に、そうやって人に夢を与えることができる人って、すごいよね」
「えっ?」
「俺は、誰かに夢を与えることなんてできないだろうし。自然にしてて、それが認められる人って、本当に一握りだ」
冷たく言い放った。
さっき『自然』って、花愛ちゃんの表紙を褒めていた言葉なのに、今の彼が口にすると、まるで掴めない砂を何度も何度も掴もうとしたことのある人のような言葉に感じた。
なんだか急に暗い気持ちになり、どう声をかけていいか分からなくて戸惑うと、彼は「なんてね」と微笑んでみせた。
「はい、手袋。もう落とさないようにね」と遙汰くんが私に手渡す。
受け取ると、彼はコンビニの中に消えていった。
遙汰くんは、先生のこと、本当はあまり好きじゃないのかな。そう考えつくと、寂しい気持ちになり、手袋を持つ手に力がこもった。