不機嫌な恋なら、先生と
「心配ではないよ。俺も好きにやってるから、あいつにも好きに生きてくれたらいいと思ってるし。何かあれば、手助けはしたいしね。でもそこには、あいつの意思がないと関われないから、まあ結局、何もしてないけど」
迷惑の様に先生は言っていたけど、実際は遥汰くんのことをきちんと認めてるんだなって思った。それは先生が言うように好きに生きてるから言えるのかもしれない。
じゃあ、私がどうのこうの心配する様な事ではない。
時間を確認して、
「あっ。じゃあ、私、社に戻るので」
「うん。俺は今日はここで書いていくよ」
「分かりました。では、また」と店を後にした。
通りに出ると、迎えから来た人が足を止め携帯を見た。どこかで見たことがある人だなと、すれ違い際に横目で見て気がついた。
オルーの展示会にいた人だ。澤辺くんが、私にまどかさんと紹介してくれた女性。
すごい偶然だなと立ち止まり、会社が近いので、不思議ではないのかもしれないと思いなおした。
そっと振り返って見ると、彼女は、さっきまで打ち合わせしていたカフェのドアを開け、中に入って行った。
『まどか』
先生の寝言を思い出して、ドキンとした。
あの寝言は、小説の主人公の名前だったでしょと、自分に言い聞かせるのに、胸が騒いで、踵を返してしまった。