不機嫌な恋なら、先生と
Grantの編集者である私と先生がそこで会う理由を、知っていた。
そして、隠さなければいけない理由も、彼女は知っていた。
それは、つまり匂坂凛翔が匂坂羊次であることを知っているということだ。
その事実を知っているのは、きっと、ほんの一握りなんだと思う。遙汰くんが、親戚も知らないと言っていたし。
だから、あの人がもし、そのことを知っているとしたら、よっぽど親密な関係なんだと推測する。
「まどか」
立ち止まり、呟いてみた。
オルーの展示会にいた女性の名前、匂坂先生の小説の主人公の名前、先生が寝ながら呼んだ名前……。
この名前に意味はあるのかな。どうして、小説のキャラに同僚の女性の名前を使ったのかな。
違う。もしかして。まさか。
帰りながら、ずっとそんなことを思っていた。