不機嫌な恋なら、先生と
6
忘れられない恋
仕事が終わり、会社を出ると、低い柵に腰かけている遙汰くんがいた。黒いコートにマフラーをしっかり巻いているけど、肩をすぼめて、寒そうだった。
「なつめちゃん」
私を見つけると、子犬みたいに駆け寄る。
「どうしたの?」
呆気にとられていると、「待ち伏せしたら会えるかカケしてた。良かった、来た」と、微笑む。
「えっ?こんな寒いときに外で待ってたら、風邪ひいちゃうよ。それなら、連絡してくれればいいのに」
「連絡先、知らない」
「あっ……」
自分の言葉に墓穴を掘ったと思った。
「じゃあ後で教えて。ていうか、これから暇? 飯でも食いに行かない?」
「飯って……」
先生の顔が過ぎるけど、隣でクシュンと遙汰くんがくしゃみをするから、仕方なく近くのファミレスに入った。
約束はしてないけど、寒空の下待たせてしまったのは、悪い気が勝ってしまう。
先生には、遙汰くんと偶然会ってファミレスでご飯に行くことだけは伝えておいた。
メニューを選んで、注文する。食事が届く前に、温かいコーヒーを先に頼んだ遙汰くんは、両手でカップを包んで、少しほっとした表情をする。