不機嫌な恋なら、先生と
「あ、ベッドの上のクッション使っていいからね」と、キッチンへ行ってコーヒーとタルトを準備する。トレーにのせて戻ると、本棚の前に先生はいて、彼が誕生日にくれたゴマアザラシが表紙の本を手に取って眺めていた。
「それが一番懐かしい?」
訊くと、「うん。こんな写真だったけ。プレゼントした方はあんまり覚えてないものだな。ぼんやりだけど。懐かしい感じはする」
「読み込んでる感じするでしょ」と、マグカップとタルトをテーブルの上に置いた。
私が座ると、先生も隣に座った。
「狭い?」と尋ねると「もっと近づきたいくらいだよ」と先生は言うから、恥ずかしくなる。
とりあえずテレビをつけながら、当たり障りない話をする。一緒にいるだけで、嬉しくて、楽しい。
シンプルだけど確かな感情で、お互いがそう思っている気さえした。
うまくいってる、大丈夫だ、そんな思いが込み上げてくる。
いつの間にか寄り添うように座っていて、テーブルに置いた携帯を取ろうと前屈みになると肩がぶつかって、ごめんと顔を上げたら、目があった。
そのまま先生が私にキスをして、目をつむる。一瞬だった温もりが、角度を変え、何度も何度も温もりを与え、それは湿り気の帯びた感触に変わる。
だけど、そこでふっと頭に浮かんだのは、まどかさんの顔だった。
「あっ」と思わず声にしてしまう。