不機嫌な恋なら、先生と
「なつめ?」
「ごめん。なんか今、肘、ぶつけちゃって。ソファーの肘掛けに」と誤魔化しながら、そっと体を離した。
先生は私の頭を気にしてないというように撫でるから、泣きたくなった。
この手が、この人がいなくなってしまったら、私はどうなってしまうんだろう。
何てことのない顔をしながら普通の生活を送る。けど、きっと、今感じた気持ちを何度も思いだし、泣きたくなってしまうんだろう。
でも、怖くても、先生を信じたい。言えないのは先生を信じてないから、そんな関係にはなりたくなかった。
「あ、この前ねオル―の新作発表会に行ってきたけど、良かったよ。ブログにもアップしたんだけど、見て」
と、自分が上げたブログの記事を見せる。このタイミングでなら、自然に聞けるはずだ。
「そういえばね、展示会にいたスタッフですごい綺麗な人がいて、まどかさんって人なんだけど、知ってる?」
「まどか?」
呟いて少し考えてから、知らないと言った。
先生、会ってたくせに。どうして嘘を吐くんだろう。隠されると余計に何かあるのではないかと、想像してしまう。
元彼女で、今もたまに会うことはあるとでも言ってもらったほうが、さっぱりしている。潔くない。
どうして――。
何か言えない理由があるのかと思って、そういえば彼女は薬指に指輪をしていたことを思い出した。
結婚してるから、不倫になるから、だから言わないのかな。
そう思いついて、もうひとつ踏み込んで聞き出そうとすると、先生の携帯に着信があった。