不機嫌な恋なら、先生と

「遥汰」と眉根を寄せ、私にごめんと断りを入れて電話にでた。

「はい。えっ、鍵、忘れた? いや、今、家にいない。うん」

通話が終わったところで、先生が私を見る。困ったというように。

「ごめん、遙汰が鍵忘れて、家に入れないって。忘れ物したから取りに行きたいそうなんだけど、一回家に戻っていい?本当にごめん」

「ううん。わかった。仕方ないね。遙汰くん、本当におっちょこちょいだね、おかしい」

笑ったつもりなのに、先生はどうしてか表情を固くした。笑ったことが間違いであるかのような空気に私ものまれて、口を閉ざした。

「なつめ」

改めて名前を呼ばれたときに、なんとなく先生も、私に話したいことがあったんだと気づいた。

「遙汰に俺たちのこと言ったんでしょ?あいつから昨日聞いたよ」

「あ、ごめんね。言うつもりはなかったんだけど、突然聞かれて、誤魔化したんだけど、バレちゃって。嘘吐き続けるのも気まずい雰囲気になって、言っちゃったんだ。本当にごめんね」

まあ言ってしまったことは仕方ないけどと、少し間を置いてから、真剣な声で「なつめはさ、俺の気持ち考えたことある?」と訊いた。

「え?」

「俺、なつめが思うより、大人じゃないし、心だって広いわけじゃないから。ちょっと嫌だった。二人でご飯食べに言ったって話も」

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