不機嫌な恋なら、先生と
「この前、まどかさんとカフェで二人で会ってたじゃない。私、見たよ。あの人、元カノさんじゃないの?」
「だから、まどかって誰?本当に知らないけど、俺が元カノと浮気してるって言いたいの?」
頷く。言ってくれたらいいのに。言ってくれたら、もし、気持ちが少し残っていたとしても、正直に言ってくれて、もう彼女とは会わないと言ってくれたら、私は、先生のことを許せるかもしれないのに。
それさえ、言ってくれないなんて。
「呆れた」と、先生は呟いた。
「何がなんでそうなるか、わかんないんだけど」
「彼女と不倫してるからですか?」
「はっ?」
目の前にいる先生に手を伸ばせば触れられるはずなのに、すごく遠い人のように感じた。
さっき与えてくれた幸福感は、夢でも見ていたみたいだった。
恋人と心が通わなくなることが、こんなに身を切るように痛くて、悲しいことだと思わなかった。
「もういいです。行ってください。遙汰くん、待ってますから」
「話が途中だろ、こんなんじゃ帰れない」
「本当に帰って。一人にさせて」
強い口調で言って、背中を向けた。
言ったそばから後悔した。
あの腕で私を抱き締めて、ただ謝ってくれればいいのに、先生は諦めたみたいに何も言わずに出ていった。