不機嫌な恋なら、先生と

彼には言ってやりたいことが沢山あった。

彼の戸惑う顔を見てみたかったのは、自信満々な彼が嫌いだったからだ。視界に入るだけで、イライラさせる。何か分からないけど、自分にだって、やりたいことがある。聖也みたいにある。そう思いたいと強く感じさせるからだ。

だけど、そう信じたいけど、何もないと気づかされる。そうやって焦る自分になど、まどかはなりたくなかった。

でも、違う。本当は、彼を追い詰めたいんじゃない。追いかけたかったんだ。だって、本当は「聖也は、怖くないの?周りの人と違う道を進んでいくことが」と訊きたかったんだ。

聖也の留学するという夢は、いじめが先なのか、夢が先なのか、どっちなんだろうとまどかは思ったけど、口に出さなかった。

撮影が終わり、カメラを聖也に渡すまどか。気のせいか、彼の目が潤んでいた。

なんの涙だろうと思った。まどかは全然彼のことがわからなかった。いじめから解放される涙か、夢を追える喜びなのか。
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