不機嫌な恋なら、先生と
違う。きっと、未来に対する不安だ。夢を選んだ彼にも、そういう気持ちはあるはず。この年で、周りの環境と違う人生を選ぶということは、勇気がいるに決まっている。
批判されるかもしれない、失敗したら、やっぱり普通に生きれば良かったと言われるかもしれない。そういう不安が彼にだってある。その涙だ。
考えついて、笑いたくなった。ただ、自分がそう思いたかっただけだと。そう思うことで、彼を近くに感じ、私と何も変わらないとこんなときでも思いたかった。
「いつ行くの?」とまどかが尋ねた。
「来週」
「早いね」
「早いほうがいいから」
聖也が先に大人になっていくような不安を覚えるまどか。
だけど、まだゆっくりでいいんだと言い聞かせるような思いが混ざり合って、言葉にならなかった。
ざわめきも笑い声もない教室は、まるで世界から見放されたみたいだと思った。聖也の心の中のようだと、想像する。寂しいのに、誰も必要としていないような世界。
「教室って、こんなにきれいだったの、知らなかったな」と、聖也は目を細める。
「今日、まどかがいてくれて、良かった」
ごめんと言う代わりに、まどかは言った。
「聖也、私みたいな人がこの先、現れても、負けないでね。ただ聖也が眩しいから、そういう人が暗いことを言うだけなんだよ。それだけだから、負けないでね」
なにそれと、聖也は言う。
太陽からは、いくつもの光の線がさす。梯子のように見えた。聖也はここからひとつ選んで、太陽をめがけてのぼっていく。どれを選んでも目指す先は、大きな光の中しかない。だから、大丈夫だよ。
まどかは、祈った。初めて彼の為に、祈った。