不機嫌な恋なら、先生と
読み終わると、頬を涙が転げ落ちた。
私の心の空いている隙間に丁度収まるような物語だったからだ。
「この話って、何かに似てない?」と、遙汰くんは私に訊いた。
「うん。ちょっとだけ、似てる気がする」
頷いて、指の腹で涙を拭う。鞄からハンドタオルを取り出した。
「俺も、聖也がなつめちゃんに見えた」と、潔く答えるから、考えすぎかもしれない、だけど、こういうことだと受け止めてしまいたくなる。
先生は、気づいていたのかもしれない。私が高校受験を決めた前向きな理由の裏側に不安があることを。
だから、そっと背中を押す物語を書いてくれたのかもしれない。
今どんなに絶望し、誰かに嫌われたりしていても、どんな理由であれ自分で決断した未来は大丈夫なんだと私に言ってくれているみたいだったからだ。