不機嫌な恋なら、先生と
「兄貴の言ってたある意味恋愛小説だって話はさ、なつめちゃんが読んだら、そう受け取るってことじゃないのかな?だって、こんなの渡されたら、好きだって言われてるようなもんじゃん」
タブレットに視線を落とした。
先生は私と再会したとき、こう言った。
『今日、君に会ってみて、次の話に箱崎さんみたいな子を書いてみたくなったんだ。だから、もっと見てみたくなった』
『話してたら、物語が頭に浮かんだんだから』
この物語では、二人は友情とも言い切れず、しかし恋ではないだろう、すごく曖昧だけど確かな絆で結ばれたように感じた。
その数年後を急に書いてみたくなったのは、私と再会して、この物語を思い出したからかもしれない。
そう考えると、やっぱり私の小説に思えてきて、胸の中を優しさとも表現しがたい、心地好い温かさが巡る。
「兄貴がこの小説を書いたタイミングって、さやさんと付き合ってた頃かもって言ったっけ」
遙汰くんが呟き、私を見た。
「あのさ、もしこれが、なつめちゃんの為に書いた小説だったら、俺、ちょっと救われるんだ。
さやさんと兄貴が、別れた理由が俺じゃなくて、兄貴の気持ちが変わったってことなら、少しだけ救われる気がする」
遙汰くんがすがすがしく言うから、胸がすいた。
頷くと、今度は別の涙が頬をつたっていった。