不機嫌な恋なら、先生と
「なんかなつめの顔、見れないな」と、先生は少し俯いて、笑いを噛み殺してるみたいだった。
「先生、確かに今の言い方、子供みたいだったけど、笑うのはあんまりです……」
「違う。可愛かったから」
「可愛いと言えば、誤魔化せると思って。可愛いなんて、いたずらする子供にも壁に爪とぎしたミケランジェロにでも言えますよ」
怒りながらも、可愛いと誤魔化してくれる先生は、まだ私を見放したりしていないことに気がついた。
心を落ち着かせ、すっと先生を見つめた。
「先生、言い訳させて下さい」
そう言うと先生は、待ち合わせ場所まで行ってみるかと誘ったから、頷いて後を追った。
隣に並ぶとゆっくりとした歩調で進む。見上げて先生がいることが、なんだか嬉しかった。
私が話をする前に、先生は落ち着いた口調で話し出した。
「ごめん。俺もまどかって言われてピンとこなかったから、なつめに聞かれて知らないって、嘘ついたようになってしまった。あの後、知ったよ。前付き合っていた彼女が結婚して、名字が円に変わってたって。その人の事を言ってたんだろ?」
相槌をうって、私も「でもいいんです。すべて誤解は解けましたから」と、ゆっくり時間をかけて、まどかさんと話したことを伝えた。