不機嫌な恋なら、先生と
先生は綺麗に食べ終えると、「ご馳走さま。すごいおいしかった」と素直な感想を述べた。
作ったものをおいしいと言われるのは、すごく嬉しかった。
ひとり満足していると、先生は腕を広げ、「おいで」と、私を呼んだ。
その胸に飛び込めということだとわかったのに、突然のことで身体が動かなかった。
「来ないなら、俺が行くけど」
「い、行きます、行きます」
恐る恐る近づいて、ソファーを背にした先生の足の間に背中を向けて座った。
「なんで敬語?」
「なんか怖くて」
「へえ、今も怖い?」
先生の左手が軽く腕に触れ、反対の手は私の毛先を遊ぶ。
「大丈夫」
「ていうか、先生以外でそろそろ呼んでほしいんだけど」
「りりあんは?」
「りしか原形残ってないけど」
「りくぽん」
「別に普通で良くないか」
「いや、差別化を図りたくて」
「何と」
「それは……」
元カノと言いたいけど、悔しいので言わないことにした。
「秘密」と言うと、「隠し事?」と私を奪うように抱きしめた。
「苦しいよ、先生」
「じゃあ、言う?」
そうしてしばらくふざけあっていると、「そろそろ寝る?」と先生が聞いて息を飲んだ。
「なつめ?」
「あ、はい。寝ますか」
「風呂どうする?」
「あ、私、後でいい」と即答した。