不機嫌な恋なら、先生と

先生は綺麗に食べ終えると、「ご馳走さま。すごいおいしかった」と素直な感想を述べた。

作ったものをおいしいと言われるのは、すごく嬉しかった。

ひとり満足していると、先生は腕を広げ、「おいで」と、私を呼んだ。

その胸に飛び込めということだとわかったのに、突然のことで身体が動かなかった。

「来ないなら、俺が行くけど」

「い、行きます、行きます」

恐る恐る近づいて、ソファーを背にした先生の足の間に背中を向けて座った。

「なんで敬語?」

「なんか怖くて」

「へえ、今も怖い?」

先生の左手が軽く腕に触れ、反対の手は私の毛先を遊ぶ。

「大丈夫」

「ていうか、先生以外でそろそろ呼んでほしいんだけど」

「りりあんは?」

「りしか原形残ってないけど」

「りくぽん」

「別に普通で良くないか」

「いや、差別化を図りたくて」

「何と」

「それは……」

元カノと言いたいけど、悔しいので言わないことにした。

「秘密」と言うと、「隠し事?」と私を奪うように抱きしめた。

「苦しいよ、先生」

「じゃあ、言う?」

そうしてしばらくふざけあっていると、「そろそろ寝る?」と先生が聞いて息を飲んだ。

「なつめ?」

「あ、はい。寝ますか」

「風呂どうする?」

「あ、私、後でいい」と即答した。
< 263 / 267 >

この作品をシェア

pagetop