不機嫌な恋なら、先生と
「原稿いらないの?」
真面目な声のトーンで先生は言った。振り返ると、どこか冷めたような目で私を見ていた。
「けっこう、がっかりだな」
「先生がそうやって、私をからかうからです」
「からかってないよ。オフという言い方が引っ掛かるなら、打ち合わせだと思ってもらえればいいよ。それと、担当作家からの取材をうけるって、普通に仕事じゃないの?」
「すみません。代わりに他の誰かを探してみますので」
「箱崎さんがいいんだけど」
「……無理です」
「そう。わかった。じゃあ原稿は真野さんに渡して、箱崎さんは担当外してもらえるか相談してみるよ」
「……脅しですか?」
「脅しっていうか、今の君と仕事したいと思えないから、そうしたいだけ。感じ悪いし、協力する気もないし。
目的もあわない、信用できない人と仕事をするのは嫌でしょ。お互い」
そんなこと沙弥子さんに言われたら、私、また何かやらかしたって思われるに決まってる。
仕事ができない人だって思われるんだ。また迷惑かけちゃう。そうじゃなくても、沙弥子さん、仕事いっぱい持ってるから大変なのに。
「困ります」
「困るのは君でしょ」
「……」
「……」
「先生がそんなものの言い方をする人だとは、思いませんでした」
「君がどう思おうが別に構わないけど」
私は侮辱されたような気になり、先生を無言で睨んだ。