不機嫌な恋なら、先生と

あの日の放課後は、雨があがって澄んだ空気が、はじけたみたいに眩しかった。

「なつめ、まっすぐ帰るの?」

「うん。今日、かてきょ」

「そっか。大変だね」

「うん。じゃあ、ばいばい」と教室を出てすぐ気づく。休み時間に終わらせた宿題のテキストを机の中に入れっぱなしだということを。振り返ると、彼女たちの話し声が聞こえた。

「なつめ、なんでわざわざ受験すんのかな?」

「えー。がっこーに馴染めないからに決まってるでしょ」

「あー。やっぱり、なつめってさ、ちょっと浮いてるよね。なんかマイペースだしさ。たまに空気読めないのかなって心配になっちゃう」

「そのわりにプライド高くない?」と、笑う。

「あー。わかるわかる。この間もさ」と、彼女たちは普通の会話をするみたいに淡々と話して、帰りどこか寄ってく?と相談し始めた。

立ち聞きをしてしまったことを知られたくなくて、そのまま帰った。

それから気付いた。普通の会話をするみたいじゃなくて、普通の会話だったんだ。

私と午後の体育、プールだって嫌だよね、さぼりたいとか、生活指導の先生がうざいとか、いつも言うみんながわかるーと共感してくれるような普通の話だったんだ。

やっぱりな、と思った。

雨が上がったのに、土砂降りの窓の外を眺めているみたいだった。


晴れろ、晴れろ、晴れろ。


心で繰り返すけど、てるてる坊主の効果くらいに無意味だ。
< 32 / 267 >

この作品をシェア

pagetop