不機嫌な恋なら、先生と

「なつめ」

そう呼んだのは、凛翔先生だった。校門の前で、こっちを見て手を振る。

目を瞬かせ、乾かそうとしたけど無理だった。俯いて拭ってから、先生に駆け寄った。まつ毛が少し濡れてるのが自分でもわかったから、思い切り笑ってごまかした。

先生はたぶん気付いてない。動じなかったからだ。

「なんでいるの?」

「友達んちに寄ってきたとこ。そういえばなつめの学校ってここかって思いながら、駅に向かってたら、今、偶然ここになつめがいるから……」

「びっくりした」と声がそろって、また笑った。





一コマ目が終わると、「五分休憩するか」と先生は、ママが持ってきてくれた紅茶に手を伸ばした。

「先生、ごめんなさい」

「ん?」

「今日、学校に英語のテキスト忘れちゃって。宿題もちゃんとやったんだけど、英語、進めないよね?……先生が良かったら、来週、英語二時間やって、今日は数学を二時間でもいいですか?」

「それでもいいけど」

悪い顔をして「サボる?」と先生は笑った。

「……うん。サボりたい」

「わかった。じゃあこうしよう。今度、図書館で勉強教えるからさ、今日はサボろう」

「え?先生、そんなに暇じゃないでしょ?」

「なつめは特別」と先生は簡単に言って笑う。心臓がどんな音をたてたかなんて、きっと想像もつかないくらい気安く言った。
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