不機嫌な恋なら、先生と
『結局、彼女とはダメでしたけど、そのお陰でまた書きたい気持ちがあることに気付けて、今があるので、すごく感謝してますね』
そうとも言っていた。
恋愛小説が好きだった彼女を思い出した。
あのあと、別れていたんだ。
あれ?とそこで気が付く。先生、恋愛小説書くの、初めてだって言ってなかったっけ。なんで私にそんな嘘を吐いたんだろう。
先生の隠したい黒歴史とか?
私に見せたくないと言った小学校のときに書いた小説みたいに。
ただこの小説を忘れてるだけなのかな。それともこのインタビューで答えたことが嘘?
まあ弱味には繋がらないだろうから考えるだけ無駄かと、また諦めた。
やっぱり地道に信頼関係を築くほうが早いかな。
一息吐いて、束ねた髪をおろした。
ふと思い出したのは、気まぐれに撫でた手。
知らない振りをしているのに、あの瞬間だけ、凛翔先生の顔をしていた。
『なつめは特別』
変な期待はしない。あのときみたいに特別扱いされるわけは、ないんだから。
代わりにハモメ食品に勤めている友人の本間澄美に、本社勤務の知り合いがいたら、紹介してほしいと伺いのメールをした。