不機嫌な恋なら、先生と
そこで、先生が一度編集部にも取材に行きたいと言っていた話を思い出し、スケジュール帳を見ながら予定をあわせた。
平日は仕事だから、私が休日出勤の予定になっている土曜日、クリスマスだ。
「結構スケジュール的にギリギリですけど、大丈夫ですか?」
「いつもこのくらいのペースで書いてるから大丈夫。年末年始の休みもあるし、いつもより集中して書けそうだよ」
しかし、こんな大事な日に取材の予定を入れるなんて、本当に彼女いないんだなと、改めて実感する。私の中で先生は彼女がいて当たり前だったから意外だった。
「今、寂しい奴って、思ったでしょ?」
「あっ、いえ、そんなことは決して」
しまった。伝わってしまってる。感じ悪く思われてしまう。
「そ……それよりですね。三月号の題材ですけど、前の打ち合わせでも話しましたけど、二月ですしやっぱりバレンタインでいきましょう。
あと読者からのリクエストをまとめてきたんですけど。意見としてこういうのが多かったです」
意見をまとめた一覧を先生に見せた。手に取って眺める。優しいまなざしだと思った。
「最近ちょっと切ない話が続いたので、ハッピーエンドでとか、甘い絡みがあるのが読みたいとかそういう意見が多いですね」
「なるほどね。ハッピーエンドで甘い話か」と、顎に手をあて眉根を寄せた。ちょっと困ってるようにも見えた。
私も切ない話は好きなんですけど、と前置きしてから続けた。
「あの……先生の小説って、優しいですよね。読んでいると、こう……そういう男性に見守られてるというか、包まれているような気持ちになります。
それって、ちょっと手を加えてみたら、女性としては甘い気持ちになると思うんですよね。
だから先生なら、そういう話も書けると思うんですよ」
そう言って恥ずかしくなった。先生が優しいと言ってるみたいだったから。それから取り繕うように笑った。
「すみません。なんか支離滅裂ですよね」