不機嫌な恋なら、先生と

「だってせっかく貰ったから。先生は?」

「気、短いからびりびり破くよ」

「えーっ?本当に?ラッピングってけっこう気を遣うものなんだよ」

包みから出てきたのは、ゴマアザラシの赤ちゃんが表紙の本だった。

「……可愛い」

「動物好きだって、言ってたから。本も好きだし?」

「うん。覚えててくれたんだ。うれし……」

一ページ目を見て、二ページ目をめくる。犬がいたり猫がいたり、短い言葉が並んで書いてあった。それからパラパラとめくって、先生の顔を見た。

「あとでゆっくり読む。先生、本当にありがとう」

「うん」

「あのさ……」と先生が言うと、携帯の着信音が鳴った。

先生はダウンベストのポケットから取り出して見る。名前が見えた。さやと書いてある。彼女の名前だ。

もう一度、ゴマアザラシに視線を落とした。濡れたような瞳が印象的で、写真なのに、見つめられてるみたいだ。私がその目に映っているような気がしたのは、そのせいかもしれない。
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