不機嫌な恋なら、先生と
バレンタイン<8年前>
二月になった。今月末に公立の入試を控えていて、少し緊張感があるこの頃。それは同時に先生とのお別れの季節を意味しているからかもしれない。
雪はあまり降らないけど、北陸や東北、北海道は大雪だとテレビで言ってた。
「先生」
「ん?」
二コマ目が終わって、いつものようにコーヒーを淹れて運ぶ。バレンタインは明後日だったけど、先生に次、会うのは来週だった。
「あの。これ、いつも勉強教えてくれるから、良かったら食べてください。ちょっと早いけど。いつもありがとうございます」と、ラッピングしたバレンタインチョコを渡した。
「驚いた。ありがと。これ、開けてみてもいい?」
まさかその場で開けるという選択があるとは思わなかったから、固まる。
想像してなかったほころんだ顔に、ダメだなんて言えなくて、頷くと先生は丁寧にラッピングを外す。先生が書く文字みたいにきれいに。
生チョコをひとつ頬張ると「うまい」と言って、微笑んだ。
こういうとき、私は自分に現実を突きつけたくなる。そうやって、今喜んでくれてるけど、それだけなんだよと自分に言い聞かせる為に。喜んでくれただけで、それが私の人生を鮮やかに変えるストーリーに繋がるわけではないと。
「バレンタインは、彼女さんとデートですか?」
マグカップに唇を寄せて、先生は上目遣いをするように何か考えて、それから言った。
「わかんない」