不機嫌な恋なら、先生と
唇にチョコレート
「チョコレートっていうから、びっくりしましたけど。作るんですか」
バレンタインをテーマに書いてみるということは、わかっていたけど、チョコを作るという発想はなかった。
行った先は大型のショッピングモールだった。その中にある大手のスーパーに立ち寄る。かごを片手に先生の隣を歩く。
「うん。チョコってどう作ってるのか見てみたくなって」
「どういうチョコがいいんですか?」と、訊くと、「なんか柔らかいの」と、曖昧に答える。
「じゃあ生チョコにしましょうか。先生の家ってバットありますか?チョコを流して固めたいので。タッパーとかでも大丈夫だと思いますけど」
「あった気がする」
生クリームとチョコレート、ココアパウダーを手に取っていれると、「これだけで出来るんだ」と、先生はかごを覗いた。
そこは冷静に「ええ」と返した。
「あと買うものありますか?」
「そうだな」と、あたりを見渡す。
「先生って、自炊します?」
「ほぼしないかな。箱崎さんは?」
「時間があるときだけですかね」
「仕事忙しいか」
「そうですね。遅くなることが多くて……」
そう言いつつ、考えた。
先生、私、ご飯を作りに行きますか?いや、でしゃばりすぎだ。また気持ち悪いと距離をとられるに決まっている。
「あれ?」
先生が呟いて立ち止まる。視線を追うと、泣いてる男の子に目が留まった。まだ幼稚園くらいかな。きっと迷子だろう。そう思うと、自然に足が出ていた。
「大丈夫?どうしたの?」
目線をあわせしゃがむと、目をこすりながら私を見た。恐いと思ったのか、顔を隠すように手で覆う。