不機嫌な恋なら、先生と

誰もいない部屋に明かりを落とす。

コートを脱いで、かけた。

本棚に手を伸ばす。先生からもらった本。あの日と変わらないゴマアザラシの赤ちゃんが私を見つめていた。

私は、もうできない。あの日みたいに、先生を見れない。

だって、もう懲りたんだ。先生に片思いするのは、懲りたんだ。だからもう、関わりたくない。下手に関わると乱されるって、わかってるから関わりたくなかった。

私に、彼氏がいると思っているくせに。

簡単に手を繋いだり、触れたりするなんて。

「サイテー」

やっぱり、そういう人だったんだ。

女の子に気を持たせるのが、好きなだけ。自分は何も思ってないくせに。

それなのに、胸の中を木枯らしが散歩してるみたい。なんだか切ないんだ。

すぐに違うと自覚する。

昔、好きだったからだ。

先生の、彼女に見せるような顔を、ずっと見たかった顔を、あんな形で見ちゃったからだ。動揺したのは、昔の――15歳の私なんだ。

思い出には、時間がないみたいなんだ。だから、勘違いをするんだ。

その思い出が、切なければ切ないほど、今と昔の時間の間隔をわからなくさせるのが上手なだけなんだ。
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