不機嫌な恋なら、先生と
先生と最後<8年前>
バレンタインの翌週が最後だった。
いつものようにコーヒーを飲んで終わりの時間になる。最後なんて思えなくてまた来週にも教えに来てくれそうな穏やかな空間だった。
ママと玄関で見送る。そこでようやく、ああ、本当にもう会えないんだろうな、そんなこともあるんじゃないかってくらいに実感できて、淋しかった。
「頑張れよ。受かるから」私に向かって言う。
ママから「先生のお陰で合格圏内まで成績が上がって、本当にありがとうございました」と、お礼を言われると「頑張ったのは、なつめさんですから」とかしこまって答えて、最後に会釈をした。
扉を閉めて、息を吐いた。先生とは、もう会えないんだ。
これで、良かったのかな?
初恋だった。
先生には彼女がいて、私はただの生徒だった。
それ以上を求める必要があるの?と、考えるけど、それ以上があってもなくても、ただの生徒という扱いを壊したくなった。
どうせ、もう会えないなら。好きだったということくらい、先生に伝えてもいいんじゃないかって。
そのまま上着を持たず、私は先生を追いかけた。
冬の夜の匂いがして、木々が風で揺れていた。
「凛翔先生!」
不思議だったのは、私が呼び止める前から、先生は私の家の方を向いていたことだ。少し驚いたように肩をすくめた。