不機嫌な恋なら、先生と
「何して……」
「先生に、私、言いたいことがあって、じゃないと、勉強できない。テスト受けれない。前に進めない」
勢いよく言う。
ぽかんと見ていたのに、鼻をすすった私を見ると顔をくしゃりと崩した。
「さっみーだろ」
そう言うとモッズコートを広げ、私を中にお招きするように抱き寄せた。私の耳に、先生の規律正しい心臓の音が伝わる。
もっと聞きたくなって自分から耳を少し近づけた。
息が白い。雪は降らない。肌に触れる風は少し痛い。先生は温かい。涙が出そうだと思った。理由もない。先生がここにいて、私がいて、世界があって、それだけで涙が出そうだった。
「大丈夫だよ」
先生は言う。受験の心配じゃないんだよ。そう言いたいのに、今日は涙が強い。押し上げてくる。気持ちの底から涙が顔を出してくる。まるで夢の中にいるみたいだ。
だってこうされたかった。
「俺が言うから」
「……え?」
「待ってて」
そう耳元で囁いて、先生は私のおでこにキスをして、引き寄せた腕を離した。
「メールして」
「メール?」
「合格発表終わったら、メールして」
「……」
「あと、卒業式終わったら、会いたい」
「……え」
「待てる?」
頷いた。
「よくできました」
優しい声だった。これから何かを導いてくれる光みたいな明るさのある。暗い帰り道でさえ、星の中に包まれている、そんな夢心地な気分にさせるには十分だった。