不機嫌な恋なら、先生と

当たりが出たらもう一本。あの自動販売機の前に立っていたのは先生だった。

背中でわかった。いつものショルダーバックを肩にかけていて、目の前には、先生の彼女がいて、そっと先生の頬に手を伸ばした。

愛おしそうに撫でる。先生の表情は見えないのに、その手をどけることはないから、自然な恋人のスキンシップに見えた。きっと微笑んでいるんだろう。

すぐ踵を返した。

心臓が自分のものじゃないみたいにドクドクと体の中で暴れてる。

先生は彼女と別れてなかったんだ。

もしかして、二人で私の合格祝いをしたかったってこと?

ということは、彼女にもこんな生徒がいて、なんて私のこと話したりしてたんだ。

バカみたいだった。私、ひとりで勘違いして、盛り上がって、先生と付き合えるのかもしれないなんて期待して。

会いたいですなんて、メールを送って。

先生はどんな気持ちで受けとっていたんだろう。

苦笑いして、彼女に見せたりしてたのかな。

彼女に会わせるのは、遠回しに断る為なのかな。

なら、なんであんな中途半端なキスをするの。

からかいたかったのかな。でも、それって、酷すぎる――。

ただ、恥ずかしかった。

『ごめんなさい。今日、行けなくなりました。今まで本当にありがとうございました。』

短くメールを打って、帰りの電車の中、ひとり泣いた。

先生からの電話も出ないまま、番号とアドレスを変えて、それから先生とは一度も会わなかった。
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